現在ヲ読ム 平成25年1月1日

現世安穏を祈って|平成二十五年

被災地の復興を心よりお祈り申し上げます。

昨年は、台風十二号による紀伊半島大災害からの復興元年として、失われた「お旅所」の復元と職舎の建設、また沖縄本土復帰四十年を記念する平和式典「世界平和への祈り梛」を沖縄で開催するなど多忙を極める一年となりました。

お陰さまで「お旅所」は、国、県、新宮市はじめ多くの皆様からお寄せいただきましたお見舞いにより昨秋復元することができましたが、まだ木々もまばらで、古来のこんもりとした姿には遠く、今後も植樹を続けて荘厳な佇まいを取り戻したいと願っております。

お力添えいただきました皆様に厚く御礼申し上げますとともに、今後とも何卒ご支援賜りますようお願い申し上げる次第です。復興への道は未だ遠く困難を極めますが、今年は更に前進する一年にしたいものです。

さて、本年は癸巳歳(みづのとみとし)、熊野三党の末裔として父祖のあとを継ぎ神職の道を志して三十六年、私もついに還暦を迎える歳になりました。新宮と縁の深い神武天皇のお導きにより橿原神宮で五年余り奉職して熊野に戻りました時、帰郷して最初に父から言われた言葉が思い出されます。

「最初の一年は、黙っておれ」。やりたいことがあっても最初は口を出さず、熊野で一から勉強し直せと言うことだろうと思いました。熊野について知れば知るほど奥が深く、どこからでも広がり掴み所がありません。しかし、天地(あめつち)を教えの源とする自然信仰を源流として、神と仏と人との関係を説いてきた熊野権現信仰に触れ、そして「救い」を求める人々の難行苦行の歴史に辿り着いた時、身が打ち震えるような感動とともに、何かが身体の中に入りました。

この時、ようやく父の言葉の真意がわかりました。そして、代々熊野の神々に仕える宮司家に生まれた私の覚悟が、ハッキリと決まった瞬間でした。熊野詣の旅が命がけなら、祖先もまた真心をもって人々を迎え入れてきた史実・・・ これを熊野速玉大社の信仰の核において、「甦りの聖地 熊野」を初めて語ったことが、昨日のことのように思い出されます。

「現世安穏、救いの祈り」こそ、熊野詣の心そのものだと思います。弱者救済、博愛の精神、進取の気質、権力に媚びることなく、信奉する者も信じない者も別け隔てなく受け入れてきた熊野の歴史は、どこを語っても光り輝いています。

還暦を迎えて、大神様のご加護をいただき、新たな気持ちで進むために、世界の平和と現世安穏の祈りを込めて、清らかな「白巳」を描きました。皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

熊野速玉大社宮司 上野 顯


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